腎機能推算式についてまとめたいと思い、始めたwebページがやっと本道に入ります。
まずは、とても有名なCockcroft-Gault式から。
※医療者向けに作成しております。ここでの情報は自己責任で利用してください。
この文章は、新たな文献などが見つかりましたら、追記/変更します。ご了承をお願いします。
Abstract
Cockcroft-Gault式は1976年に発表された古い式ながら、現在でも使用されている推算式。推算式の作成は24時間蓄尿の式を元に作成されていますが、よくわからない所もあります。影響因子としては少なくとも食事・年齢・筋肉量・体重・薬剤に対する報告があります。
これらを考慮にいれて使用する必要があります。
Cockcroft-Gault式とは
Cockcroft-Gault式は体重・血清クレアチニン・性別からクレアチニンクリアランスを算出する腎機能推算式。計算機があればすぐに計算できるためか、薬剤師でよく使われている推算式です。
本来であれば、24時間尿をためる(蓄尿)+採血を行う+身長/体重を計測する検査(24時間蓄尿検査)をおこない算出されるクレアチニンクリアランスですが、大変+すぐにはわからないこともあり、広く使用されています。これにより、蓄尿の過程がなくなります。
人種の影響を受けると言われる推算式というジャンルにおいて、他国で作成された式にもかかわらず、現在でも使われる脅威のベストセラー的な計算式でしょうか?
研究も多々されているので、データが豊富な推算式でもあります。
発表された論文は?
この推算式の論文は古く、1976年のNephronに掲載されました1)。現在、汎用している腎機能推算式では最も古い式で、半世紀近く前に行われた臨床試験です。
著者はカナダの大学による論文です。
式の成り立ちは・・・
この報告1)では、24時間蓄尿からクレアチニンクリアランスを算出する式に変換して作成されています。

24時間蓄尿からクレアチニンクリアランスを算出する式に含まれる変数は『血清クレアチニン値』と『24時間蓄尿で得られる尿中クレアチニン値』のみです。
血清クレアチニン値 ▶ すぐに測定できる ▶ 実測値で対応
尿中クレアチニン値 ▶ 測定に時間がかかる ▶ 推定する
ですので、これによりクレアチニンクリアランスをすぐに算出できます。
つまり、この報告では24時間の尿中クレアチニン分泌を測定→式を作成→その式を24時間蓄尿の式に代入して変換して作成しています。
24時間蓄尿からクレアチニンクリアランスを算出するアプリ等を使用すると、身長と体重も求められる事があります。これは体表面積補正(いわゆる標準化の腎機能ですね)するために必要で、補正しない(個別化の腎機能)場合には不要です。
試験背景
24時間蓄尿で得たクレアチニンクリアランスと腎機能推算式によるestimate Cleatinine Clearance(eCCr)とを比較しています。比較対象はすでに発表されている3つの式とNomogramで、比較する基準は、相関係数とstandard Errorなどで比較しています。
その結果、Nomogramの次に良かったのが、 この腎機能推算式。Nomogramは式ではないので、推算式として最も良い結果になりました。
女性は検討していない
背景は18歳から92歳までの健康な男性を対象に研究され作成された式1)です。ですので、式を作成したデータの中には女性のデータはありません。では、女性のデータはどうしたか・・・
考察に記載があり、様々な著者が10〜20%減量することを推奨しており、15%が適切と思われるという記載があるのみ。ですので、この論文を見てみると女性の式はありません。現在ではどの教科書でも「0.85をかける」ことが記載されていますが、最初の論文にはその式が見当たらないのは、不思議なものですね。
ちなみに、人種も記載がありません。腎機能推算式は人種差を受けることも知られていますので、気になるところです。
クレアチニンの測定方法
Jaffe法(Jaffe法も種類がありますが・・・)・酵素法などがあります。 今回の資料からは測定機器はわかりますが、ネットの検索でも引っかからずに詳細はわかりません。なので、何による測定方法であるかはわかりません。
が、時期や他の推算式から考えるとJaffe法ではないかと推測されます。
Jaffe法によるクレアチニン測定は、酵素法に比べて誤差も多いなど色々ありますが、別の時にまとめたいと思います。
様々な影響因子がわかっている推算式
この推算式は様々な影響がわかっています。有名な要因としては食事・年齢・体重による影響があります。
食事による影響
蓄尿によるクレアチニンクリアランスは体内にあるクレアチニンと排出されるクレアチニンの両方から排泄する量から計算されますが、推算式は体内のクレアチニンの量のみから計算されます。ですので、排泄量は同様でも分泌量が変われば当然影響を受けます。
エビデンスでは、肉の摂取量・クレアチンの摂取量のデータがあります。
食事を下記2種類に分けてクレアチニンの推移などを、比較した研究。
●「3食を肉のタンパク質を制限した食事をした日」
●「朝は225gの茹でた肉を摂取し、昼・夕食は制限した食事をした日」
それぞれのクレアチニンを比べた時、クレアチニンのAUCが上昇・尿中クレアチニン量は上昇するが、クレアチニンクリアランスは変わらなかった事が報告されています2)。
クレアチニンの推移を見ると、食後2時間後のクレアチニンの方が高いようです。朝に200g以上の肉はなかなかheavyな食事ですね。
・食事を下記3種類に分けて経過を見た試験になります。
1.通常の食事で経過を見ている
2.Formula :タンパク質を主にカゼインに変えてクレアチニンとクレアチンを含まない食事にした。(タンパク質量は70g、115-120g)
3.Special diet :タンパク質を含むが、肉を含まない食事
4.自由な食事:肉を含む食事を行う
これらの群で、1週間毎に血清クレアチニン値、尿中クレアチニン値、クレアチニンクリアランスを測定している研究になります。
これより、食事がFormula の時には、血清クレアチニン値、尿中クレアチニン値は減少するが、クレアチニンクリアランスが低下しないことが週単位の検査でも確認されています3)。この試験では血清クレアチニン値、尿中クレアチニン値が定常状態になっていないので。
上記データを見るとクレアチニンと食事の影響は、
短期 = 食事をした直後(2時間前後を直後というかどうかというのはありますが・・・)と
長期 = 週単位の影響
ともにあります。ですので、どちらも注意が必要です。
また、ともにクレアチニンクリアランスには影響を与えていませんので、腎機能には影響を与えておらず、見た目だけ(eGFRだけ)影響を与えていることになります。
ただ、いずれも症例数が少ないですね。臨床試験が古いので仕方がないのかもしれませんが・・・
年令による影響
年齢が高くなるにつれCockcroft-Gault 式の精度が低下していくことの報告がされています5)。このデータは日本人ですので、信頼性は高い。確認した報告だと、優位な差を認めたのが65歳以上であり、年齢が上がれば上がるほど精度が低下しています。
Walser M. の論文6)を見ると、尿中クレアチニン分泌は年齢が上昇するごとに低下する傾向が示されており、これらは3つの可能性について記載しています。
1)除脂肪体重の減少
2)筋肉内のクレアチン濃度の減少
3)除脂肪体重内における筋肉の比率が減少
これらを考えると、年齢が上がるごとに筋肉量の減少にならずにクレアチニンの前駆物質である、クレアチンの濃度の影響もあるため、筋肉が維持できていても影響があるかもしれません。
逆に低年齢に対する影響は、少なくともこの報告では55歳よりも低年齢の症例について調査した研究が確認できていません。推算式が作られた時の報告が18歳以上の方を対象にしているので、18歳以上の方にしか使うことはできないと考えます。
筋肉量
一般的には筋肉量と推算式の精度に影響があり、筋肉量が少なくなると腎機能推算式の精度が低下するとされています7)(論文上はこれに血中アルブミン量も関連するのですが・・・)。ですが、腎機能推算式への直接的なデータは見つけられませんでした。
尿中クレアチニン量は体内の除脂肪体重を表していること6)、Cockcroft-Gault式が24時間蓄尿の式から尿中クレアチニン分泌を推測して作成していること1)を考えると、筋肉量の低下は腎機能推算式に影響を与えるとされることは当然だと考えられます。
体重による影響
BMIが高い時には推算式の精度が低下することが示されています8・9)。
推算したクレアチニンクリアランスと、24時間蓄尿で測定したクレアチニンクリアランスとを比較したWinterらの報告8)では低体重=BMI18.5kg/m2でも低下はしますが、それほど大きな差にはなっていません。
有意差をもって平均0.221mL/minの差があったところで、よほど精密な何かをしていない限りは臨床上は何も問題ないと考えます。まぁ、有意差があるので、上記の筋肉量に関連するような低体重であれば影響があることが予想されますが・・・
むしろ、BMIが大きいほうが差が大きい。
この報告では、over weight(BMI=25.0〜29.9kg/m2)、obese(30.0〜39.9kg/m2で)、mobidly obese(40.0kg/m2以上)の4群に分けて解析していますが、群をまたがるともに、加速度的に差が増えており、最終的には、mobidly obeseにて平均50mL/min以上の差があることを報告8)されています。
他の報告では、mobidly obese(40.0kg/m2以上)では平均100mL/min以上の差が報告されています9)。
ですので、このような場合に考えるのは実体重で推算をすることで良いのかを検討することになります。ですので、様々な体重指標(理想体重、調整体重など)を代入し、推算式の精度の影響があるか調べた報告がありますが、その内容は後ほどまとめます。
薬剤による影響
薬剤の服用により、一時的にクレアチニン分泌の上昇やクレアチニンが上昇する場合があります。これは腎機能の低下を伴う場合=クレアチニンクリアランスの低下、腎機能低下を伴わない=クレアチニンクリアランスは変化しない場合があります。
まとめると
このように、推算式には多々、影響因子があります。それぞれに対してCockcroft-Gault式を修正した式を作ってみたりと、それらに対応した報告はあります。
ただ、推算式なので、推算しているに過ぎないんですよね。ですので、計算されて算出された数字をそのまま使うというより、影響因子を検討して算出された数値を検討するのがいいと思います。
これはどの分野でも同じだと思います。
HBA1cだって、何にでも使えるわけではなく、グリコアルブミンの方が良い時がありますから。
すべての状態に対して使える腎機能推算式が開発されると、いろいろと楽になるのですが・・・
参考文献)
1)COCKCROFT, D. W. and GAULT, M. H.: Prediction of Creatinine Clearance from Serum Creatinine. Nephron J6: 31-41 (1976)
2)MICHAEL MAYERSOHN et al. THE INFLUENCE OF A COOKED MEAT MEAL ON CREATININE PLASMA CONCENTRATION AND CREATININE CLEARANCE Br. J. clin. Pharmac. (1983), 15, 227-230
3)Roberta E. Bleilelr et al. Creatinine excretion: Variability and relationships to diet and body size J Lab Clin Med. 1962 Jun;59:945-55.
4)Mary A. Winter et al. Impact of Various Body Weights and Serum Creatinine Concentrations on the Bias and Accuracy of the Cockcroft-Gault Equation Pharmacotherapy. 2012 Jul;32(7):604-12.
5)Matsuo M, Yamagishi F. Age-dependent error in creatinine clearance estimated by Cockcroft-Gault equation for the elderly patients in a Japanese hospital: a cross-sectional study. J Anesth. 2019 Feb;33(1):155-158.
6)Walser M. Creatinine excretion as a measure of protein nutrition in adults of varying age. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 1987 Sep-Oct;11(5 Suppl): 73S-78S.
7)Sanaka M, Takano K, Shimakura K, Koike Y, Mineshita S. Serum albumin for estimating creatinine clearance in the elderly with muscle atrophy. Nephron. 1996;73(2):137-44.
8)Winter MA, Guhr KN, Berg GM. Impact of various body weights and serum creatinine concentrations on the bias and accuracy of the Cockcroft-Gault equation. Pharmacotherapy. 2012 Jul;32(7):604-12.
9)Demirovic JA, Pai AB, Pai MP. Estimation of creatinine clearance in morbidly obese patients. Am J Health Syst Pharm. 2009 Apr 1;66(7):642-8.

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